コバナシマーケット
ソラ横丁裏町の小さなマーケット。
ここにあるのは、文章書きスキーなソラが自作のお題でぽちぽち書いたコバナシ。
暇つぶしにでも、どぞ。

ほのぼのと季節を感じて12のお題
1.はるのあらし
2.はなみ
3.むし
4.すいか
5.きんぎょ
6.たなばた
7.さんぽ(音読推奨)
8.くりひろい
9.たいふう
10.そり
11.みかん
12.ゆきみち























はるのあらし

このまちは、とかく春になると天気が悪い。
とくに、4月のはじめなどというのは特にそうだ。
大雨がふったり、季節外れの雪がふったり。
そうなると気の毒なのは新一年生で、たいていの小学一年生の文集には、
「にゅうがくしきはてんきがわるかったです」だの、「あたらしいくつがびちゃびちゃになりました」
などという作文がずらりと並ぶ。
新一年生は、なにも小学生に限らない。中学生も、高校生も、社会人もいる。
なかには、入学式が小学校は大雨、中学校は強風、高校はみぞれなんていう強者もいるかもしれない。
それはとても大変なことだと思うけれど、ひょっとするとそれは、天気のよかった入学式よりも
ずっと印象に残るある意味すてきなできごとなのかもしれない。

















はなみ

その花見は、ちょっと変わっているのかもしれない。
あたたかな日に、自転車で出かけて行ってただぼうっと花を眺めながら
お茶におにぎりでも頬張って(サンドウィッチでもいい)気に入った花をカメラにおさめる。
人物はフレームに入れず、ただ花だけを。
デジタルカメラで、携帯電話で、ときにはポラロイドカメラで。

手元にある写真の中で気に入っているのは、自転車で山の麓の公園へ桜を見に行く途中で見つけた、
路地裏に咲いていた桜。
それを見つけたのは本当に偶然だった。どこにも桜が見当たらないのに、道路に落ちた無数の花びら。
自転車で追いかけた先にあった、ただ1本の桜の木。

それは花びらの数と比べると思いがけず小さかったけれど、親しまれていると感じられた。
そのとき、手に入りにくいフィルムを惜しんで一度だけポラロイドのシャッターをきった。

その写真は、いまでは色あせて桜の花びらも空も白くぼやけてしまったけれど、
眺めるたびにそこに流れていた静かな空気とあたたかさ、見つけたときの小さな驚きをおもいだす。


ありがとう。












たなばた

たなばたの夕、カタカタと下駄の音。

しろいサッカーの浴衣、桃色の兵児帯、手にぶら下げた赤い提灯。
急いでかきこむ冷や麦、とおくから呼ぶともだちのコエ。

家々を回る子どもたちのうたごえ、サヤサヤと揺れる笹の葉ずれ。
様子を変えた夜の公園で、こっそりと灯した線香花火。

記憶の中のたなばたは、いつも雨のにおいがした。
いつのまにか、白いろうそくはその姿をけしていた。

あの風景は、いまはもうない。












さんぽ

さんぽは楽し。きみとゆくならなお楽し。

春には花を、夏には緑。
秋には落ち葉、冬にはましろ。
ゆくあてもなく、ふらふらと、時にはくらりとさまよいながら。

どんどんと細い小路に踏み込んで。ちいさな発見積み重ね。
あばいてやろうよ、よこがおを。澄ました仮面をはぎとって。
首尾よくゆけば目の前に、ステキな表情あらわれる。

きみとゆこうよ、楽しいさんぽ。いたずらごころをつっかけて。
さんぽの友に、わすれるな。
夏には帽子、冬にはマフラー。もひとつおまけにわらいがお。












金魚

金魚、金魚。真っ赤な襦袢でひらひら泳ぐ。
そとには何があるのかも、まわりにどれだけいるのかも、
こつんとガラスにぶつかって、向きを変えればすぐ忘る。
ひらひら金魚、日がな一日ひらひらと。じっと待つのは天からの餌。
どうして餌が降るのかも、金魚に取っては知らぬこと。
泳いで、食べて、番って、眠る。いつかこの身の朽ちるまで。
赤い襦袢も色あせて、クヌギの下に眠るとき。初めて世界を知るだろう
それとて今は、知らぬこと。
せめて泳げよ、ひらひらと。
ひら、ひら、・ひ
・ら・・ひ・・・






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